『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂・清谷信一)

okapia2008-08-20

組織とは。国家とは。

軍事を知らずして平和を語るな

軍事を知らずして平和を語るな

 
本のタイトルから連想されるような細かな軍事的知識(易しめ)もいろいろ含まれてはいるものの、その本質は国家組織とはどうあるべきかというそもそも論。問題に直面した際に原点や趣旨に必ず立ち返る言論姿勢はとても勉強になります。
石破さんの本を読んだのはこれで二冊目。彼の議論は正論ばかり。しかも、正論をぶつけるだけでは物事は決して動かない、と本人が悟っているのもよく理解できます。
筋の通った正論を正面からぶつけて徹底的に議論する。そして説得する。民主主義のルールを通じて生まれた最終的な「結果」には、自分の意見がどうであれ、甘んじて従う。しかし、民主主義のルールを根本から翻すような卑怯な行動には断固として闘う。そんな清々しい熱意が言葉の端々に感じられ、非常に好感が持てました。
軍事的・政治的信条が彼と合致していないとしても、クリアな民主主義的組織観は他分野にも応用できる要素。本当の優しさ、本当の誠実さとは何かを再考できる良い機会になりました。
 
たくさん線を引いたのですが、たった今引用したくなった箇所だけぽつぽつと。
なおこの本は対談本ですので、引用文にも石破氏と清谷氏の発言が混在しているものがあります。
 

……しかしまた、「素人である政治家」が軍事をコントロールするのが民主的文民統制の根幹なのであり、それは「誤った判断をすれば主権者である国民の手によって交代させられる」というただ一点をもって正当化されるのである。そうであるがゆえに、これには多大のリスクが伴う。……

(p.4)

……フランス革命は、「国王が好き勝手に戦争をしたり、年貢を徴収するのは許せない」という国民の怒りから起こったもので、その結果、軍事に対する権能と徴収税を王から国民に移したわけです。で、国家は国民のものとなった。しかし、誕生したばかりの国民国家フランスは常に周辺諸国から狙われる。でも、今までの王様の軍隊はもう守ってくれない。
だから、「俺たちの国家を守るために、俺たちで軍隊をつくらなければ」と立ち上がった。その「俺たちの」が、徴兵制の徴兵制たる所以であるんですよ。「王様の国でなく我々の国なんだ。だから、我々の国を侵すものに対して、我々が守らなければならない」というお話です。国民すべての国家であるというところが、ローマ帝国ギリシャアテネなどとは違うんですよね。

(p.43)

集団的自衛権の行使交渉や武器輸出に反対するにしても、「自分たちの民主主義や文民統制は信用できませんので」とハッキリ言えばいいんです、ハッキリ。

(p.44)

でも、ハイジのおじいさんは元傭兵ですからね。……

(p.47)

……サイバー空間において敵と戦うということは、システム防護隊にとっては「実践」であり、「交戦」だと考えられます。まさに、交戦権の行使だと思うのですが、これについては、野党から何の指摘もありませんでしたね。

(p.59)

……たとえば、テレビゲームなどでは、マップ上に軍隊しか登場しないことが多いですよね。軍隊対軍隊の構図です。
……実際の戦争においては、あるいは大災害でもいいですが、間違いなく「民間人」がいて、「避難民」が生じます。そして、彼らはゴジラの映画じゃないけど、被害のない場所へと怒濤のごとく流れていきます。……

(p.66)

世間ではあまり認知されていませんが、日本はNBC兵器(核・生物・化学兵器)全部の被害を受けた世界唯一の国です。……
N(核兵器)の攻撃を受けたのは日本だけですし。B(生物兵器)だって、オウム真理教が亀戸で炭疽菌をまいた。たまたま菌が無害化されていたから被害がなかっただけでね。C(化学兵器)は地下鉄サリン事件で多くの犠牲者が出た。

(p.73)

……生物兵器の一番怖いところは、「国家による攻撃である」という証明がなかなかできない部分にあります。工作員は死んでしまうし、「自然発生でしょう。我が国は何もしていません」とシラを切られたら……それこそ死人に口なしです。

(p.74)

軍事衝突や奇襲というのは、たいてい受けた側は相手が「冷静にかつ論理的に損得を考えて行動すれば、起こすはずのない行動」と思っていてやられています。何分、決定するのは人間という感情で生きている生き物ですから。

(p.115)

……「弱い兎は長い耳を持っています」という話をよくするんですが、兎は強い牙も、強い爪もないからこそ、長い耳を持ち自分の身を守っている。……

(p.147)

……「『政治に関与してはならない』ということと、『政治に対して意見しない』ということは根本的に違うのだ。軍事のプロである自衛官が政治に対して意見しないで、なんで文民統制が成り立つのか」……

(p.195)

……故松下幸之助氏がこう述べています。現場に「ラジオの部品点数を二、三パーセント減らせ」と命じると、「無理です、できません」と尻込みする。そこで「じゃ半分に減らせ」と言ったら、今度は実現した、と。要は数パーセントの削減だと、それまでと変わらない発想でチマチマ削ろうとするから減らない。ところが、半分に減らすとなると、根本的に設計や製造法を見直さなければならない。結果として、部品を半減する方が楽であったというわけです。

(p.212)

……防衛庁副長官になったとき、日頃から尊敬しているある学者の方とお話しする機会があったのですが、その方が開口一番、「石破さん、あなた防衛庁自衛隊が好きでしょう?」と言われるんですね。「もちろん好きです」と答えたら、「だったら、必ず嫌な思いをしますよ。好きだからこそ、よかれと思っていろいろ意見を言うでしょ。そうすると必ず排斥されるんです。あなたにもやがてそれがわかりますよ」と言われて、ずいぶん複雑な気持ちになったことをよく覚えています。……

(p.231)