『海に住む少女』シュペルヴィエル

境がぼんやりとゆらいでゆく。

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)

ジュール・シュペルヴィエル(Jules Supervielle)は1884年に南米ウルグアイで生まれた詩人・小説家。両親はフランス人で、創作活動にはフランス語を用いた。作家の生い立ちが作品に透けて見える例は数あるけれども、シュペルヴィエルの複眼的で寂寞とした作風は、やはり彼自身の置かれた複雑な生活環境が強く影響を与えたのだろうと思わせる。帯には、<フランス版宮沢賢治>と紹介されていた。一見やさしい文章なのに、幻想的で不思議な世界観がどっしりと広がっている。
 
読後一番に感じたのは孤独・幻想・神々しさ・シュルレアリスム。大きなストーリー変化というより、絵画を眺めるように一つ一つの世界を感じるべき短編集。もちろん、始まりと終わりで世界の大反転を感じる人もいるのかもしれないが、自分は両極含めて奥深い一つの世界として楽しんだ。
出自がはっきりしない登場人物が多いのも、シュペルヴィエルのメッセージかもしれない。話の流れがどうのとかオチがこうのとか些細な帰着点をこせこせ詮索するより、もっと素直に宙を漂えばいいと思う。ふわふわっと。
切ない気もするけれど、別に皆不幸じゃないんだと思う。彼ら(登場人物たち)は幸せかと訊かれると悩むところだけれど、決して悲しいお話とは思わなかった。むしろ美しいぐらい。
 
シュヴァンクマイエルの『アリス』も連想。(cf:Sep.13, 2008

ヤン・シュヴァンクマイエル アリス [DVD]

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特に気に入ったのは、「海に住む少女」「セーヌ河の名なし娘」「牛乳のお椀」。
今パラパラめくって目に入った、印象的だった部分を一つ。

「でも、もう何も必要ないんでしょう?」
「必要なふりをしているだけよ。時間の重みに耐えられるようにね」

(「セーヌ河の名なし娘」p.68)

 
再読&愛読したい一冊。
 
何か妙な空間と疑いながらも足を進める。そういえばもうどれくらい来たっけ。
見渡せば上下左右白白白白。あとはしっぽり深く霧の中。