住宅事情とインド社会

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2009年 02月号 [雑誌]

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2009年 02月号 [雑誌]

 
雑誌だと以前から『COURRiER Japon (クーリエ・ジャポン)』が好きなわけだが(cf:May.10, 2007Jun.13, 2007)、今回の2009年2月号は特に気に入った。
 
中でも「新たな中流階級が”亡命”する『ゲーテッド・コミュニティ』」という記事。
ゲーテッド・コミュニティ(Gated community)>とは、塀に囲まれた広大な新興総合居住区のこと。その空間の中では電気は24時間使用可能、水はきれいに浄化され、スーパーマーケット、敷地内の掃除、ゴミ収集、たくさんの監視カメラや警備員を用いた厳重な警備体制までが完備されている。また、学校、病院、大学、人工湖、ゴルフコース、スパなどが用意されているケースもある。この閉ざされた空間の中ではインドに居ながらにして西洋的ライフスタイルを送ることが可能となっていて、中流階級の人々が次々と入居しているという。
以上のような環境は、先進国と呼ばれる諸国ではめずらしくないことなのかもしれない。逆に言えば、現在のインド全体では、そうした環境が実現されていない。だからこそインドの人々はゲーテッド・コミュニティに格別の魅力を感じるのだ。

10年ほど前には、中流階級の人たちが武器を持った警備員に守られたなかで、グローバルなライフスタイルを楽しむなど、考えられなかったことだ。

「高学歴の都会人が質を選ぶようになった結果です。安全、水道、電力のバックアップは最低条件ですね。さらに、彼らは似た考えを持った人たちと住みたいというソフト面の願望も持っています」

「独自の旗をつくってパスポートを発行すべきだ、とデベロッパーと冗談を言い合ったよ」

「ここには全体像というものがありません。周辺に与える影響や周囲のつながりといった問題が考慮されていないのです。こうした街は”孤島”になることを奨励されていると言えます」

「プライベートなスペースが大きくなると、周りのことを無視できるようになります。物事に怒る理由が減り、かかわらなければならないことが少なくなるのです」

「システムに圧力をかけ、公共サービスを変える力のある人々は、その変化に自分の生活がかかっていません。一方、その変化によって生活が左右される人にはそれを訴える力がないのです」

「我々は自分たちの都市と住宅地を取り戻す必要があります。塀を設けて一部の人だけが安全に暮らせるようにする、という考えには問題があります。民主主義の柱である平等主義が脅かされているのです。都市部のエリート層がますますそういう暮らしを求めるようになれば、一般市民の安全のために税金を使うプレッシャーが弱くなる。これは我々の民主主義精神にとって非常に有害です」

 
この記事では、社会のゲーテッド・コミュニティ化による人々の<想像力の欠如>の問題が強く指摘されている。世界や日本の社会問題が次々に連想されて、ゲーテッド・コミュニティの弊害をインドの都市生活だけの問題とは自分には思えなかった。
<嫌なもの>を社会的に排除し続けるだけでは飽きたらず、今度は自分たちが<安全>で高い高い壁の中に閉じこもってしまった。社会のノイズを積極的に聞かないどころか、無意識的に聞こえなくなってしまうほどに頑強なシステムが静かに激しく構築されつつある。システムをつくった人々はシステムによって支配され、隔絶された社会は荒廃していく。
 
参考として、アメリカのゲーテッド・コミュニティについて詳しい本はこちら。

ゲーテッド・コミュニティ―米国の要塞都市

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財の再配分を拒否する高所得者たち。<公共>とは何か。
 
その他にも、職業選択や結婚の自由化が進む若者事情、自殺者の急増など、昨今のインドにおける諸問題がたくさん。
他の特集ではオバマ大統領の大統領選挙勝利演説の詳しい分析・解説も載せられていて、こちらも興味深かった。