『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ(Jhumpa Lahiri)

インド系でイギリス生まれの若手小説家。
停電の夜に (新潮文庫)
本のタイトルと、淡くて綺麗な表紙に惹かれて手に取った。本自体は一般的な文庫本の厚さだが、読書慣れしていなくても、中身の濃い短編たちが読者を飽きさせない。
内容は、インド系移民の葛藤や疎外感、インドを訪れた「外国人」との関わり、彼らの恋愛や結婚…など。ただし、「インド小説」ではない。インド人のみが体験する類の出来事ではなく、世界の誰もが感じる寂しさが無数に漂っている。特に「外国」を強く意識しやすい日本人は、疎外された世界観を共有しやすいのではないだろうか。
優しい雰囲気、文体で話は進むものの、どの話も決してハッピーエンドとは言えない。かといって、彼らがただ不幸であったかと考えると、簡単には肯定できない。置かれた環境と時間は音も立てずに流れて行き、もみくちゃにされた主人公たちが、ぽつんと取り残される。19世紀末の外国文学から感じるような、運命論的な展開も多かった。諦念を感じながらも、人間は立ち止まらずに小さな足を引きずる。というよりも、生き続ける。
短編集ではあるが、底流にあるのは同じ一つのテーマだろう。編を重ねるごとに本全体の理解が深まる。いわゆる「上手」な文章運びなので、技巧的と嫌う方もいるかもしれない。その一方で、読後感の深みは、他小説の群を抜く。短編を一つ読み終わった後は、胸が一杯でなかなか次に進めない。小説が大好きになる一冊。
 
停電の夜に (新潮文庫)
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