『知的財産と創造性』 宮武久佳

徹底的にわかりやすい。
知的財産と創造性
とても上手な文章で、夜中に一気に読み切ってしまいました。というのも、著者はもともと共同通信の記者をされていた方。人に読ませるという視点から非常に良心的に書かれているので、事前知識が無くてもどんどん読み進められます。図や表はほとんど出てきませんが、文章だけで十分。重要事項、分かりづらいトピックは何度も取り上げてくれますし、ハリーポッタービートルズ、ディズニーなど理解しやすい事例が豊富で、読者を飽きさせません。
知財入門として最適。法律書コーナーを眺めていて、すっと手が伸びたのがこの本。衝動買いだったけれど、出会えてよかった!
知的財産権」とは、著作権特許権、商標権など、人間の創造的な活動の成果・業績を広く認め、作り手の財産として保障したもの。特に無形、つまり、目に見える形が無いものを指します。

なぜ、この知的財産権を理解しておくべきなのか。それは、知的財産に関する制度や法律などのルールが改正されたからではなく、自分たちが住む世界環境が大きく変化してきたからです。IT技術が発達しデジタル化が進展したことで、素人でも完璧なコピーができるようになりました。それは、「可能になった」というのみにとどまらず、無意識のうちに知的財産権を侵害してしまう危険性が素人の間でも高まってきた、ということです。著者はそれを「ルールを知らずに試合をしているようなもの」と述べます。リスクを回避するための最低限の知識は、誰もが身につけておくべきものでしょう。
ここまでは、最近の義務教育でも教える内容です。
著者はここからがユニーク。彼は「知財は人類の共有財」という視点を強く持っています。つまり、知的財産権を文化発展のためにみんなでどう活かしていくか、それに伴って著作者自身や企業をどう保護していくべきか、一般人から見ても非常にバランスの取れたまなざしで知的財産権を見つめています。守り一辺倒ではなく、攻めの姿勢が感じられます。制度の善し悪しよりも、制度の理念をどこに据えるべきかを幅広く論じています。伝統芸能や図書館と著作権との関係は?ボストン市が「ボストンバッグ」の商標権を主張し始めたら?
知的財産をもって豊かな文化・社会を実現するためには、どのように考えるべきか。立場はさまざまにせよ、読めば読者なりの基準が頭に芽生えるはずです。日々溢れんばかりに増加する、情報や知的財産。そこに生まれるたくさんの権利とどういった形で付き合っていくべきか、心強い示唆を与えてくれる懐の深い一冊です。
 
知的財産と創造性
(画像をクリックすると、本の詳細<Amazon.co.jp>が見られます。)