『下流喰い』 須田慎一郎

貸すも親切、貸さぬも親切。
下流喰い―消費者金融の実態 (ちくま新書)
著者は、消費者金融ビジネスを「悪魔的ビジネスモデル」と痛烈に批判。そのビジネスモデルから生まれた現在の社会実態を「下流喰い」状態と表現します。取材事例の数々が非常にリアル。
 
「悪魔的ビジネスモデル」とは、顧客が金融機関の利息返済を目的に消費者金融から高金利の借入を増額させるために完済が不可能になってしまう、その状態が恒常化した金融システムのことです。短くまとめると小難しいので、以下で説明します。
事態の背景には、消費者金融独特の高金利の問題、異なる二種類の法律を基礎とした上限金利ダブルスタンダードの問題、これら二つがあります。
利息制限法では15〜20%まで金利が認められるものの、出資法では年率29.2%が上限と規定されています。つまり、一方の法律では認められる金利が、もう一方の法律では認められません。銀行の金利はというと1.8%程度で、消費者金融の二つの金利と比べても低水準になっています。
たとえば、100,000円を借りて1年後に返す場合、単純化すれば【A】銀行(1.8%)では101,800円、【B】利息制限法(18%)では118,000円、【C】出資法(29.2%)では129,200円を返す必要が出てきます。支払う利息はAC間で16.2倍、差額27,400円!(借入期間による影響は除きます)たった10万円からの計算なのに、利息の増え方は尋常じゃありません。一人当たりの平均借入額は平均100万円と言われています。Cのような環境の中で毎月多額のお金をやり繰りするのは不可能に近いわけです。このような法律の無謀な上限金利設定自体が「悪魔的」であると著者は述べます。
また、返済額について、顧客は利息制限法(15〜20%)、消費者金融団体は出資法(29.2%)、互いに自分たちに有利な法律で論理立てて返済額の設定を要求します。両者の訴える利息差は10%前後。法律上あいまいなこの部分が、グレーゾーン金利問題です。
しかしグレーゾーン金利問題は、現在進行形で金融機関と法律的交渉をしている顧客からすればもちろん喫緊の重要問題ですが、どちらにせよ20%程度の金利なわけで、これら既存の選択肢を見つめ続けるだけでは、悪魔的システムの根本は取り払えないように思います。やはり、この高利率をもとから何とかしなければならない。
そして、小さな額の借入しかしていなかった人間が、利息返済のために複数の消費者金融から借入を行い(多重債務者化)、合法的な消費者金融は多重債務者にまともな貸出をしてくれなくなる。そのために、借り手は非合法のヤミ金融から不法な金利で貸出を受けることに。まさに雪だるま式に増えた借金で、全く身動きが取れなっていきます。
そもそも、消費者金融は簡単に返せる人間にはあまり貸したがりません。消費者金融は顧客が毎月利息分を支払ってくれるからこそ利益を得ているわけで、収入が少なくて利息返還にいっぱいいっぱいの顧客の方が好まれる傾向があります。
以上のように、低所得者が大手銀行→消費者金融ヤミ金に順々で徹底的にお金を搾り取られていく過程が、「悪魔的ビジネスモデル」と定義されています。
 
本のタイトルに付けられた「下流喰い」とは、上に述べた「悪魔的ビジネスモデル」の中で、経済的弱者がまともな仕事に就けないために借金取立ての仕事に染まり、より経済的に困窮した多重債務者などの人々をヤミ金などで食い物にするような、「弱者が弱者を喰らう社会状態」のことを言います。
 
三菱東京UFJ銀行アコム三井住友銀行とプロミスが提携し、大手銀行がこれまでの消費者金融のような個人融資を始めました。これからますます個人借入が身近になっていきます。
著者は、司法や行政など国家機関が本気になった今、悪質な消費者金融に対する取締りはもっときつくなっていくだろうと述べます。それでも、より下部へ下部へと潜っていく悪魔的ビジネスモデルの流れが存在するため、借り手貸し手双方の意識を完全に正常に戻すことができなければ、問題の根本的解決には到達しないでしょう。終盤で小原鐵五郎の「貸すも親切、貸さぬも親切」という言葉が引用されています。自由主義経済の中でおそらく永遠に無くならないであろう金融機関と付き合っていくためには、社会に生きる人間自身の意識改革が必要です。そのような意味で、法律などの制度的知識、消費者金融のCMが流され続けるメディアを凛とした姿勢で見据えるメディアリテラシーなど、身につけられるものは自分から積極的に学んでいかなければと強く思いました。
 
下流喰い―消費者金融の実態 (ちくま新書)
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