『レジャー白書』社会経済生産性本部

「余暇」から「人間」が見える。
レジャー白書〈2006〉特別レポート 団塊世代・2007年問題と余暇の将来
国民の余暇時間の使い方について、詳細な分析がなされている白書。
最新のものは「2006」です。これまで30年以上継続して発刊されています。「白書」といっても、『経済白書』のように専門的で小難しい内容ではありません。いわゆるランキング表や分析図が多く、解説の言葉遣いも普通の新聞程度の易しさです。毎年、時代動向に関連した特集が組まれているのですが、今回は「団塊世代の現状とこれからの10年」について、特に紙面が割かれています。2007年の大量退職を受けて国民の余暇構造が大きく変わる、ということでしょう。
 
こうした分析が何故有効か。
それは、人々の余暇の使い方を眺めることで、国民の生き方の移り変わりがとてもよく理解できるからです。国民の生活を鳥瞰できれば、企業のマーケティング地域活性化活動など、さまざまな戦略づくりに役立ちます。また、世の中の動きを知ることで、自分の余暇の使い方、はたまた仕事や勉強に対する姿勢の客観的見直しにも繋がるかもしれません。テレビ番組のトレンド特集のような一回限りの調査ではなく、数十年の推移を明快にまとめているからこそ、現実社会の動きをよりくっきりと映し出しています。
 
「2006」の分析(平成17年が分析対象)では、愛知万博を契機に「催し物」への参加率が大きく上がり、その一方で洋画に大作が少なく、映画産業がいまいち…というような感じ。こうしたアンケートを始めとして、充実した調査項目が並んでいます。団塊世代は「健康・自然・地域」分野へ大きな関心を寄せているようで、これらの産業需要の伸びが期待されます。この団塊世代、余暇活動や旅行への参加意欲は女性の方が高いようです。…じゃあ、女性の目を引く商品かつ旦那さんも一緒に連れて行きたくなるようなものがこれから伸びるかも…といった風に、自分なりの未来想像ができます。
 
ちょっと古いですが、手元にある「2004」の前書きの文章は印象的でした。グラン・ツーリズム(18世紀イギリスで世界的教養を身につけた国際人になるための大修学旅行)をテーマに特集が組まれ、世界における観光立国を目指すための、国が掲げるビジョンがわかりやすく示されています。

…「失われた10年」という言葉がありましたが、私たちが失ったのは単なる経済的繁栄ではなく、日本という国に対する誇りや自信であったのだと思います。そんな時代に、私たち一人一人がテーマを持って旅をし、地域の文化に触れ、何かを学ぶ。光を観るという「観光」の本来の意味は、このような生活文化の光に触れることであり、それが21世紀の「グラン・ツーリズム」がめざすものです。…

 
たとえ世界の中で「観光立国」を掲げようとも、そこに実際に住む当の国民が豊かで充実した余暇を過ごしていなければ、魅力的な国には決してならないでしょう。経済指標だけでなく、国民の余暇サイドからのこうした分析は、すごく身近で、しかもグローバルなテーマなのかもしれません。余暇を深く考えていくことは、個人の生活・企業・地域を豊かにするための人づくり、ひいては文化の構築へと繋がります。
「余暇」は字面だけ読めば「余った暇」。けれど、人間性が豊かに発揮されるのはルーティンワークにおいてではなく、むしろ余暇においてではないでしょうか。余暇は、自分を取り戻すための時間であり、世界を落ち着いて眺めるための大切な空間創造機会。「豊かさとは何か」を具体的客観的に考えさせてくれる、面白く意義深い一冊でした。
 
レジャー白書〈2006〉特別レポート 団塊世代・2007年問題と余暇の将来
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