『フューチャリスト宣言 (ちくま新書)』梅田望夫 茂木健一郎

創造の意志のみが未来を紡ぐ。
フューチャリスト宣言 (ちくま新書)
インターネットの可能性と人間のこれからの生き方を、梅田氏と茂木氏の対談形式で突き詰めていく。おまけ的に、慶應義塾普通部で行われた梅田望夫特別授業「もうひとつの地球」、横浜国立大学で行われた茂木健一郎特別授業「脳と仕事力」を掲載。
ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)』、『ウェブ人間論 (新潮新書)』、『シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土 (ちくま文庫)』などなど、梅田氏の著作はいくつも読んできたので、個人的にはその延長線上でウェブ世界についての考えを深めることができました(参照記事→2/14『ウェブ人間論』)。
茂木氏といえば、NHKの番組『プロフェッショナル』で司会をしている脳科学者。この本では、脳構造とインターネットの世界構造について比較と分析を行っています。おもしろい切り口の考察や感想が多くて、勉強になりました。
上に挙げたどの本から入っても梅田氏の説明する基礎的なウェブ世界観は表現されていますが、『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)』はすごくよくまとまっているので、自分は変わらずお薦めします。『ウェブ人間論 (新潮新書)』は哲学的なテーマが若干多かったので、さっくり入って行きたいなら『フューチャリスト宣言 (ちくま新書)』の方がわかりやすいかもしれません。巻末の特別授業は、講義形式なのでさらに易しいですし。
あとはお好みでどうぞ!
 
以下、今回の本で特に印象に残ったテーマを自分なりの理解でまとめます。
 
茂木氏は、インターネットの「偶有性」に着目。脳の神経細胞はローカルな回路で繋がっているので、少し離れたところでは何が起こるかわからない。脳細胞の繋がりは、半ば規則的でありながら、半ばランダムな結びつき。この「スモールワールド・ネットワーク性」が人間の創造性を生み出す。
こうした偶有性は、現在のインターネット世界にも言えること。物理的な制約を超えて、自分と同じ興味を持った人間に偶然に出会う。このような現実世界には存在し得ない予測不能な変化を楽しめるかどうかで、ネットから人々が受ける恩恵が変わってくる。脳機能と類似した「偶有性」を具現化した世界や空間は人類史上インターネットが初めてであって、これは言語獲得以来最大の地殻変動であるといえる。
「偶有性」を維持し発展させていくためには、インターネットの「公共性」と「利他性」が重要なキーワードであって、オープンアクセスを妨げ情報を囲い込むのでは既存の概念と変わらず、ウェブの可能性を殺してしまう。クリエイティブ・コモンズ(参照記事→3/5『クリエイティブ・コモンズ・ジャパン』)やオープンソースは人類史上画期的な動きといえる。
最初から完璧性を求めずに大勢の人々の知恵を集めていこうとする「Rough Consensus and Running Code(ゆるやかな合意でもいいから、動くものを創ろう。後は進化させればいい。)」は、生物にも言えること。別個の生命体であったミトコンドリアと共生することで、生物はもともと毒であった酸素を運動エネルギーにすることができた。インターネットで現在起こっている現象は、生物の動作原理にかなり近い。
インターネット世界の可能性や意義を的確に発見し、整理作業に現在のところ最も成功しているのはグーグルである。しかし、グーグルはまだ「サーチ」に留まっていて、「チョイス」を含めたパラダイムは確立しきれていない。検索する人間は、表示された検索結果をざっと見て、その中から無意識に「チョイス」を行っている。最終的には、人間の「チョイス」がグーグルの機能向上に役立っている。一方で、映像検索では観るのに時間がかかるために人間の持つ「チョイス」機能が有効に働きにくい。こうしたことから、新しいパラダイムは「チョイス」の部分に着目したものになっていくのではないか。
インターネットをしているときの脳の活動はレム睡眠時に近い。記事を読み、考え、分類し、関連事項が次々と浮かび上がる過程でいろいろな体験や記憶が高速に整理されていって、そこに新たな意味が見出されていく。思考の密度を考えれば、自らが表に出かけるのに比べてはるかに効率的。ネットでの情報収集や思考は、決して無駄な時間ではない。
ネット時代では、繋がるはずのなかった人々や空間同士がどんどん繋がっていくため、個人が不特定多数の「声」にさらされる場合が多くなる。そうした際、多様な意見である「声」をいかにポジティブな方向に受け止めていくかが重要な課題になる。この「感情の技術」が、ネット時代に生きる人間にとって、情報リテラシーとともに必須の技術となるだろう。
 
フューチャリスト宣言 (ちくま新書)
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